最近読んだ本について
最近いくつか読んだ本の中でおもしろかったなというものを残しておきます。ガルラジの後に読んだものばかりなのでそういった話になります。
道路の整備、自動車・観光の普及、産業の発展のなかで全国に誕生したドライブインをまわって話を聞き、そこで流れた時間をまとめた本です。テーマであるドライブインですが、道路脇にある自動車で乗り入れることができる施設ということで高速道路のPASAを入れる場合もあるものの、ここで紹介されているのは一般道のほうになります。
たとえば旅に出たとする。せっかくだから行ったことのない場所に足を運んでみればいいのに、いつも同じ場所ばかり訪れてしまう。食事をするのも決まって同じ店だ。「あの絶景をもう一度目にしたい」とか、「あの絶品をまた味わいたい」というわけでもないのに、再訪ばかりしている。
冒頭のこの部分を読んでかなりぐっときたんですけど、全国をまわっている著者の目線が、一方でかなり質感よりなんですよね。ひとつの土地、お店を掘り下げながら記録しようとしている感じが伝わって良かった。
それぞれの店のそれぞれの歴史を解きほぐしつつ、一方で当時の広く社会事情、あるいは現地の出来事を並べて語ることで、そこでの生活に根ざした内容になっています。軍国酒場をやっているお店の話なんかはパッとお店のインパクトやイメージだけで話したくなる点を、おそらく意図的にかなり抑えつつ、店主夫婦のやりたいことが丁寧に書かれていて良かった。岡山県児島のラ・レインボーの章は総工費50億円のインパクトのある施設なのにとにかく現地に行った人が見つからない、地元タウン誌など当時の資料を漁ってもが情報がない、なんとか読者投稿欄から状況を想像するものの、とにかく当時の話を聞ける人がいない。この辺りは本当になんでそんな事になってるのかわからないんですけど話としてめちゃくちゃおもしろい。
産業構造の変化、高速道路の開通等によって客足が激減しているドライブインが現在でもやれているのはどこも目的地として成り立っているからのようにみえるし、それをかなり意識してやっているんですよね。その記録です。
これは最近サブスク解禁された佐賀県にあるドライブインのテーマソングです。
みなさん球状コンクリーションは知っていますか?そうですか。面白いので調べてみてね。(もっとちゃんと勉強したらいつか記事に書きたい)
10月の円頓寺本のさんぽみちに出店していた古本いるふで購入しました。
山梨県(山梨市、甲府市周辺)を中心とした丸石道祖神についてまとめた本になります。丸石の分布図、道祖神祭の内容、丸石の生成に関する考察、このあたりを地元甲州で数十年記録し続けた中沢厚の章がとにかく最高です。わたしは民俗学について何も知らないのでそこの話はできないんですが、現地の道祖神としての概観を記録しつつ、毎年正月に各村で行われる道祖神祭に行くことをどれだけ楽しみにしているか、丸石そのものの魅力がどうか、それがこちらまでびしびし伝わってくる文章です。あとこの章を書いてる中沢厚、中沢新一の父とのことを今調べてて知っておってなりました。
ここで少しだけ球状コンクリーションの話をしたいんですけど、非常に硬く、大きいものだと直径2メートルになる丸石のひとつで、その中には大きなものだとクジラの頭、小さいものはアンモナイトや二枚貝などの化石が、その化石になる過程でぺしゃんこに押しつぶされないままとても良好な保存状態で含まれている、いわゆるタイムカプセルのような石です。これの成因論の一般化に成功したという話が2年前に発表されたんですよ。わたしはこれがめちゃくちゃ好き。
丸石神、名前と甲州の民俗史をみてあぁガルラジの話?ってパラパラしてたんですけどこれほとんどこれ(球状コンクリーション)じゃん!!って気付いた瞬間意識が飛んでお会計をしてた pic.twitter.com/VB2neGyWmZ
— 駅まで (@ekinmnhn) October 27, 2019
ちょっと声漏れた pic.twitter.com/e6wBCSvZZY
— 駅まで (@ekinmnhn) November 8, 2019
中沢厚. 「丸石神について」. 丸石神調査グループ・著者代表 中沢厚(編)『丸石神=庶民のなかに生きる神のかたち』所収, (木耳社,1980), 151-152.
吉田英一, 『球状コンクリーションの科学』, (近未来社, 2019), 28-29.
この2つの本の中で完全リンクする箇所が何箇所かあって、例えばそれぞれの本に同一の場所(静岡県牧之原市)で撮られた写真なんかも登場するような私的すべては繋がってる案件なんですよね。
信仰の対象だった丸石の中に生物(化石)が入っているというのもぐっときます。しかも球状コンクリーションの生成は数ヶ月~数年程度であり生物由来、これはやばいですよ。球状コンクリーション葬の時代がきます。(テンションが高いだけで何言ってるかわからなくなってきた、今最近飲めるようになったお酒を少し飲んでいます)
それはそうと双葉町(現甲斐市)*1にも丸石道祖神が街のそこここに存在していて当時(1980年)は道祖神祭も行われていたとなると早く双葉SAとその周辺を見て回りたくなりました。これは絶対に楽しい。
これはこの本に登場する好きな部分です
丸石が転がりだす→住職が死ぬ→丸石が墓石になるエピソードが3連続で出てくるのもなかなかだな……
— 駅まで (@ekinmnhn) November 8, 2019
これも丸石神と同じく古本いるふで購入しました。
最後にこちらですがめちゃ良いです。19歳で富山を離れて大阪の大学へ、卒業後に映画監督を目指して東京の映像制作会社に就職し、1ヶ月半で退職。無職期間を経て映画DVD情報誌の編集、音楽出版社ではたらき、29歳目前で会社をやめて富山へ帰る。冒頭でこの「なぜ富山をでて、そして戻ることになったのか」が書かれているんですけど、おちゃらけながらも切実な思いが端々に滲んでて、この序盤を読んだ段階でぐっと掴まれるところがあります。
私が東京にいたことを、みんなに覚えていてほしいと思った。
「あんたは愛想ばっかり振りまいとって、本心を誰にも見せようとせん。人を信じれん人間なが。自分に自身がないから人のことも信じれんが。そんなんで生きていけるんかと思って、お母さんね、本当に心配しとる」
同上, 60.
筆者が地元に戻った際に感じた富山の大きな変化に、コンパクトシティ計画と北陸新幹線が挙げられています。これはわたしが今年の3月に富山市へ行った際に、めちゃくちゃきれいだし美術館周りまでスムーズに行けるし富山市最高では?ってなっていた部分なんですが、この変化に対して感慨とともに何故か見覚えがある、東京のどこかで観たような風景だってことを書いているんですね。じゃあ富山らしさってなんだって話になるわけですが、この本で良かったなと思うのはここでじゃあダムだ、ホタルイカだってなるのではなく、街をふらふらしながら一つ一つを見て楽しんでいく、これが強いんですよね。二兎さん性がある。
オチだけを求めてやぶれかぶれに街を散策するなんて、あらかじめ「今からあなたの家の庭を荒らしにいきますよ~」と言ってるようなもので、なんという無法者なのだろうと我ながら思った。ネットの検索ワードに引っかかった場所を、とにかく一個ずつ潰していく、ローラー作戦のような私の情報収集に対し、コンちゃんには街を掘り起こすなどという気負いは皆無だった。一日の中で、ひょっこり顔を出す異質なものにいちいちつまずき、たまに派手に転びながらも「アハハ!」と朗らかに笑うのがコンちゃんだった。
同上, 83.
コンちゃんは昨日、今日、明日へと続く道をテクテクと歩いている道中で出会ってしまった、とりとめのない出来事を愛でていた。「今、生きているこの場所を、どこまで面白がれるか」コンちゃんは図らずもそれを実践していたのだった。ネット上で街ネタを無理やり探し出し、その情報が正しいか否かをたしかめに行くよりも、なんでもない田んぼのあぜ道をコンちゃんと一緒に行く歩くほうが、はるかに楽しいように思えた。
同上, 84.
富山に戻ってから筆者が地元で暮らしていくこと、そこでの記録がこの本のメインです。ぜひ読んでみてください。
それぞれの場所にはそこでやっている人たちがいて、その日々を記録している人がいるというのは本当に良いことだと思います。地方を舞台にしたガルラジ、このあたりの本を読んでいてもっとそういう話をできたら良いなって思いました。まあ部屋でインターネットをやってるだけでここまできたので何言ってるんだって話ですが……。